2022年度 マンガ本の「書誌データ作成」及び「配架作業」方法における試み と
「MADB(メディア芸術データベース)からのマンガ書誌データ取得ツール」の提供について
2023年1月31日
明治大学 現代マンガ図書館
【趣旨】
明治大学 現代マンガ図書館が、2022年度に行ったマンガ本の「書誌データ作成」及び「配架作業」方法における試みについて、経緯と課題、対策と成果を記録・公開します。また、同作業のために作成した MADB(メディア芸術データベース)からの「MADBマンガ書誌データ取得ツール」を公開・提供します。
現代マンガ図書館の設立者である故・内記稔夫氏は、マンガ資料の網羅的な収集・保存に取り組み、「増大する資料の保存方法として、複数の漫画保存施設でネットワークを作り、収集・保存の分担を行うこと」を提唱していました。近年、ようやく各地にマンガの保存施設が設立されるようになり情報交換も始まりましたが、一般の図書館にはないマンガ特有の課題も多く、それぞれに試行錯誤が続いています。また、当館と同じく、将来の施設開設に向けた暫定施設での運営の場合、さまざまな制限下での作業とならざるをえません。
当館の「書誌データ作成」及び「配架作業」方法についての試みを公開することにより、各館の施設運営での参考にしていただくとともに、お問い合わせやご意見をいただくことで、日本のマンガ文化の足跡となる資料を、よりよく次の世代に残し、活用できるよう取り組んでいきたいと考えます。
尚、本作業は、文化庁による「令和4年度 文化芸術振興費補助金 メディア芸術アーカイブ推進支援事業」における補助対象事業に認定いただき、一部費用の支援をいただいています。
明治大学 現代マンガ図書館
メールアドレス: c_manga_lib@meiji.ac.jp
1:経緯
故・内記稔夫(ないきとしお)氏が、1978年に開設した私設図書館「現代マンガ図書館<内記コレクション>」を、2009年に明治大学が継承。引き続き2019年まで早稲田鶴巻町で開設していましたが、資料収容の限界もあり、神田駿河台・猿楽町にある明治大学駿河台キャンパス内に蔵書を移転し、同キャンパス内にある「米沢嘉博記念図書館」と、閲覧、複写などのサービスを共通化して、2021年より閉架式での提供を再開。両館資料の補完的な閲覧や、郵送複写など図書館機能を拡充しました。
それまで現代マンガ図書館では、資料を紙の台帳で管理していましたが、2011年よりデジタル化、データベース化作業に着手。2015年度からは、文化庁のアーカイブ推進支援事業からの支援も受け、2021年度には、登録された書誌・所蔵データ19万冊分を、移転に合わせて「蔵書検索」としてインターネットで公開しました。
2021年までの作業は、鶴巻町の施設にある書架に配架されていたものを順に書誌データ登録し、所蔵情報(「資料ID」と「配架位置を示す記号」等)を付与し、装備・新しい保管庫に収納するという作業で、「配架済み資料」からの約19万冊の作業が終了。2022年度の作業では、購入したままの「未配架資料」への着手が必要となり、合わせて、継続している「定期購入雑誌」をどう配架するか、整理方法の見直しを試みました。
2:課題と対策
整理方法の見直しにおいて、以下の課題が見つかりました。
(1) 分類の取り扱いと区分の見直しの必要性
(2) 新しい配架方法の考案
(3) 書誌データ作成の合理化
※特に記載がない限り、マンガ単行本を「単行本」、定期刊行物を「雑誌」と記載します。
2-(1) 課題:分類の取り扱いと区分の見直しの必要性
そもそも、一般図書館で使用される配架記号(日本十進分類法)では、マンガ専門図書館のほとんどの資料が726.1(漫画、劇画、風刺画)に包含され、分類指標としては機能しません。現代マンガ図書館が40年以上の実践の中で培ってきたノウハウにより、館独自の分類として、
・種別(単行本、雑誌、参考図書、参考雑誌、同人誌、貸本、付録冊子)
・単行本の形態(A5、A6、B5、B6、アンソロジー、貸本、付録)
・雑誌の対象読者層(少年誌、少女誌、青年誌、レディース誌、アニメ誌、学習誌)
に区分した上で、
・雑誌では「出版年月日」順、
・単行本では、「著者」区分かつ「作品」区分を行なってきました。
この方法は、手作業での図書管理に有効で、資料分類を書架配置で実現することにより、台帳管理と合わせて、大規模資料のマニュアル管理、出納を可能としてきました。が、増加し続ける資料は分類された書架からあふれ、未配架資料が積み上がってしまいます。移転後の保管庫では、整理済みの資料約20万冊は旧分類方法により配架されていますが、未整理の資料約7万冊を配架するために、各分類への追加収容を可能とする予備棚を配置するスペースの余裕はなく、配架と分類の関係を見直す必要がありました。
大学図書館として、目録の総リスト化・デジタル化にも取り組んでおり、分類構造が「リストの項目」に整備されると、データリストでの検索・分類が可能となります。蔵書検索で「資料ID」と「書架番号」がわかれば、書架で分類・配架されていなくても、番号のみで、見つけて確認し出庫することは可能になります。よって、「分類」と「配架」を切り離すことも検討しました。
しかし、マンガ本の閲覧申請を見ると、雑誌はもとより、単行本においても作品を構成する「連続した巻(シリーズと呼びます)」での出納需要が大半で、同一タイトル、同一年発行の複数の雑誌、単行本の同シリーズでの複数巻が指定されます。連続した資料を出納するのに、個々にばらばらに置かれていると出庫・入庫にかかる作業と時間が大きく膨らんでしまいます。整理・保存コストはさがりますが、出納・閲覧するための活用コストがあがってしまいます。
2-(1) 対策:
分類機能は蔵書検索、データベースに移行するのですが、出納管理上の需要にも配慮し、雑誌は、同一タイトル、同一年発行で、単行本は同シリーズで集約して配架を行うものとし、分類・区分を見直して、追加配架用の予備スペースの圧縮を試みました。
すでに配架済みの資料分類はそのままとし、新分類は、旧分類の詳細区分を省略する形とし、新旧でのねじれの発生を回避しています。
新分類では、
・2020年号以後の「雑誌の対象読者層」区分を廃止。
※当区分は、読者の実態と乖離しており、(例えば、少年誌の読者が少年とは限らない)作品タイプの分類としてはまだ通用する部分もありますが、タイプやジャンルの細分化、読者のクロスオーバー化により、現在の分類は、今の読者層には当てはまりません。当館では、過去の資料に対する歴史的な区分としてのみ使用し、2020年号以降の雑誌には、「雑誌の対象読者層」区分は使用しません。
・出版社順、雑誌タイトル順にその年号として出版された資料順の配架に変更。
・単行本における「著者」区分は、追加資料の作者予測が困難で、予備スペースの設計ができないことからも、データベースで集約するものと位置付け、今年度配架分から廃止。
・単行本の保管場所は複数の部屋に分かれざるを得ないことから、もっとも変動要素の少ない出版者区分で配架の部屋割りを行いました。出版者で部屋をまとめることにより、部屋をまたいでの出納を最小限化できることを期待しています。部屋割りに当たっては、過去数年の各社資料の保有実績比率を使い、増加ペースの著しいKADOKAWAに厚く配分しています。
・配架では、「種別(単行本、雑誌、参考図書、参考雑誌、同人誌、付録冊子)」区分と、雑誌における同一タイトル、同一年発行の集約、単行本における同シリーズの集約を実施。単行本の同シリーズの巻が既に収蔵されている場合は、収蔵済み資料に合わせて収納することとしました。
2-(2) 新しい配架方法の考案
上記の通り、分類の取り扱いと区分の見直しを通して配架作業の整理を行うともに、新しい配架方法を考案しました。
以前、2009年に、マンガ評論家でコミックマーケット創設メンバーの一人でもある故・米沢嘉博氏の蔵書14万冊の寄贈を明治大学が受け、米沢嘉博記念図書館として整備・開館した時には、敷地に近い明治大学校舎内の使用していなかった教室および書架を使って、目視による人海戦術で、以下の分類を使った「一括整理による配架」を行いました。
・マンガ雑誌、参考雑誌、単行本、参考図書、同人誌、貸本、付録冊子の資料種別分類
・雑誌は、出版社ごと、タイトルごとの発行順配架
・単行本は、サイズごと、作家ごと、作品ごとの巻順配架
開設時及び、その後の整備によって全14万冊の書誌データを作成し、閉架書庫に配架、蔵書検索をインターネット公開しています。それが可能だったのは、幸運にも以下条件が満たされていたからだと思われます。(※蔵書検索は、2022年に現代マンガ図書館と統合)
・故人の蔵書のため、資料の全体が確定していた。
(関連寄贈、追加購入資料は、切り分けて管理)
・収集時期が重なる現代マンガ図書館での分類、整理ノウハウを参考にできた。
・故人を慕う多くのボランティアの協力が得られた。
・使用していなかった教室および書架を使用することができた。
現代マンガ図書館の今後の整理対象7万冊で見ると、
収集を継続しているため、全体を確定できない。書架設計が困難。
・マンガの分類の見直しが必要。
・ボランティアを活用できる体制がない。
・使用できる教室および書架がなく、現在の保管されている保管庫内での作業が必要。
・となり、目視による人海戦術での「一括整理による詳細分類での配架」は、できません。
2-(2) 対策:
従来の「配架・分類済み資料」から、「書誌データを作成」し、「収納」し、「所蔵データ」を作成するという手順を見直し、「未配架資料」は、まず「書誌データを作成」し、データを使って「配架計画を作成」、計画に基づき「収納」し、「所蔵データを作成する」こととしました。
新しい配架方法では、「配架」→「書誌作成」ではなく、「書誌作成」→「配架」となります。
保有する同タイトルの雑誌、同シリーズの単行本をどこまで集約できるかは、一括して作成する配架計画の冊数に依存します。なるべく残り7万冊を一括処理することが好ましいのですが、新しい方法で、新しい手法の検証も必要であり、作業空間も限られることから、2022年度の作業は、単行本の新規書誌データ作成作業約1万冊と、その新規配架作業約1万冊に加え、暫定配架されていた単行本約1万冊、合わせて約2万冊の再配架を実施しました。
2-(3) 課題:書誌データ作成の合理化
現代マンガ図書館では、今まで現物資料からの目視、手入力で書誌データ作成を行なってきました。取り扱い資料がISBNや雑誌コードなどの流通コードを持たない時代のものも多く、また「流通コードから自動取得できる書誌項目では、マンガの書誌として必要な項目を満たせないのではないか」という疑問を検証する機会を持てないまま、限られた予算と要員の中での対応継続となっていましたが、今回、書誌データ作成の合理化を検討しました。
・今年度の整理対象が単行本で、入手時期から想定して、ある程度、ISBNの記載が期待できること。
・MADBが、NDL(国立国会図書館)から単行本データを取得し、データ保有範囲の拡充が期待できること。
・MADB(メディア芸術データベース)のWEB APIが公開され、MADBからのデータを取得できるようになったこと。
・MADBから書誌に必要な項目の取得は可能と判断できたこと。
を踏まえ、未整理資料の書誌データをMADBからオンライン取得するツールを作成することを試みました。
2-(3) 対策:「MADBマンガ書誌データ取得ツール 」の作成
MADBからの「マンガ書誌データ取得ツール」は、現場での利用環境を想定し、Excelシートでの作成としました。
3:成果と評価
(1) 成果:分類方法「分類機能の蔵書検索への移行」と、「出納需要に配慮した分類配架への見直し」を実施。
※今のところ、従来方式からの変更による問題は見つかっていません。
次年度以降、同方法を継続し全蔵書27万冊の配架が完了する中で課題が発見されるかもしれません。
(2) 成果:配架方法「書誌」から「集約計画を作成」し、「配架する」方法を実施。
※本年度作業での不具合は見つかっていません。
今後、以下の改善点を検討する必要があります。
・バーコードのない数字のみISBNの読み取りツールの検討
(昨今、単行本でシュリンク包装にバーコードを貼付し、本体には数字のみ印刷されている資料がでてきている)
・NDLへの単行本登録、MADBへの登録タイミングの把握(出版年月日からのズレの観察)
・雑誌におけるデータ取得キーの検討
(3) 成果:取得方法「MADBマンガ書誌データ取得ツール」の開発を実施
※他のマンガ関連施設でも利用できるように、以下に、ツールを公開・提供します
本ツールは、明治大学と本ツールの著作権者である三原鉄也氏との合意の上、MITライセンスにて、公開・提供します。
「MADBマンガ書誌データ取得ツール」の提供について
(「メディア芸術データベース」側のインタフェースが変更になり、本ツールは、2024年1月30日をもって使用できなくなります。)
4:次年度以降の取り組み
本年度のこころみで、「ISBNを使ったオンラインでの書誌データの取得」「書誌データによる配架計画の作成」「大規模な目視配架がなく限られた空間での装備・配架の実現」する方法の有効性が確認できました。残る約6万冊には、本方法で対象とできる「ISBNのバーコードがついているもの」以外にも、数字のISBNしかもたないもの」「ISBNがない単行本」「雑誌」が含まれており、次年度に向けてまずは、その物量の調査を実施。「ISBNのバーコードがついているもの」については、本年度方法で整備を実施し、残る以下の課題に取り組みます。
・数字のみのISBN読み取り方法
・目視による書誌データ作成における合理化方法
・雑誌書誌データのMADB利用方法の検討
以上、大量のマンガ本整理に取り組まれている皆様からのご意見をお待ちしております。
明治大学 現代マンガ図書館
メールアドレス: c_manga_lib@meiji.ac.jp
令和4年度 文化芸術振興費補助金 メディア芸術アーカイブ推進支援事業